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設計事務所に建物を依頼する方法 #06|見積・施工者選定編:一社か相見積か、どう決める?

Guide

【結論】

#06は、「工事見積」を取り、「施工業者さんを選定」し、必要があれば「金額調整(VE)」まで行う段階です。
ここで大切なのは、見積を「安い/高い」だけで判断せず、
「計画を安心して任せられる相手かどうか」を、根拠を持って見極めることです。

 

【見積の取り方:一社か、相見積か】

複数の施工業者さんに依頼するか、一社に絞って依頼するかは、ご希望に応じて決定します。
(見積期間の目安:約2週間 ※規模・内容により前後します)

どちらが正解、というより 「何を優先するか」で選び方が変わります。

 

1)「一社に絞る」場合
一番のメリットは、施工業者さんが「仕事として前提を置いた上で」向き合ってくれることです。

仕事になる可能性が高いわけですから、見積は単なる金額提示ではなく、
「どうすれば予算内で成立するか」という相談になりやすくなります。

例えば、施工業者さんによって、メーカーさんからの仕入れ条件が違うことは少なくありません。
A社ではこの金額でも、B社だとこの金額になる。
というように、同じ商品でも、お施主さまにお出しできる金額が変わることはよくあります。

つまり、早い段階から施工業者さんを選定することで、
「同等品で、このメーカーの商品なら、もっとお得です」
というような提案を、積極的にいただけるようになります。

また、見積の段階から、施工業者さんの知恵や段取りが入ります。
見た目や性能を損なわずに、作り方で減額できる提案なども出やすくなる。

つまり、文字通り、早い段階で同じゴールを目指すチームとして、
「品質の良い建物の完成」に向かう体制が整います。

もう一つ大きいのが、「工期の見通し」が立ちやすいこと。
仕事になることが見えている案件は、段取りが組みやすく、
必要に応じて腕の良い職方の手配も早めに動けます。

結果として、見積の精度だけでなく、
「現場の体制まで含めて」計画が安定しやすくなります。

多くの施工業者さんにとって、見積は「無償の労力」です。
実務上、「仕事になる可能性が高い」と分かっているだけで、向き合い方が変わる。
少し聞こえが強いかもしれませんが、これは現場ではよく共有されている感覚です。

一方でデメリットは、「比較の材料」が少なくなることです。
相見積ほど「最新の相場感」を掴みにくい。

昨今の世界情勢のように、物流に影響が出る局面では、
物価が短期間で高騰したり、そもそも材料が手に入りにくくなったりします。

私たちも、過去の見積や単価表をストックし、相場を追っています。
ただ、こうした状況では、その認識が数ヶ月で古くなり、
想定以上に金額が膨らむことも少なくありません。

だからこそ、比較の材料が少ないことは、
不安につながりやすい要素になり得る。
ここは、一社見積の弱点として理解しておくのが安心です。

 

2)「相見積にする」場合
相見積にするメリットは、とにかく「比較できる」ことです。

同じ図面でも、施工者が変わると、金額も、拾い方も、前提も変わります。
だからこそ、複数の見積を並べて差を確認することで、
各社「どこにお金が掛かっているのか」が見えやすくなります。

実際、世の中のほとんどの方は、
「比較の上で納得して購入する」ことを大切にされている印象です。
相見積は、その「納得」をつくるための手段でもあります。

一方でデメリットは、「条件を揃える手間」が増えることです。
施工者ごとに図面を読み取るので、解釈が異なると、単純な比較ができません。

やり取りの量も増えるため、全体スケジュールが延びやすくなります。

もう一つ。
相見積では構造上、各社が「仕事になるか分からない」状態から始まります。
そのため、今まさに複数の案件を抱えている施工業者さんは、
見積そのものをお断りされることもあります。

また、受けていただけたとしても、
見積の温度感や精度、段取りの踏み込み方に差が出やすいです。
私たちの業界では、こうした状況を「お断りの見積」と呼ぶこともあります。

相見積の構造上、起きやすいポイントとして、
お施主さまも知っておかれると、判断の基準になりやすいと思います。

昨今の物価高も相まって、相見積を希望される方が増えている印象です。
私たちの場合は、各社が出してきた見積書の内容を分解し、
「同じ条件で比べられる状態」に整え、比較表を作成するようにしています。

 

【見積で行うこと:「精査」と「比較」】

提出された見積書は、そのまま受け取って終わりではありません。
私たちは内容を「精査」します。

相見積の場合は「比較表」を作成し、
同じ条件で比べられる状態に整えます。

見積で見ているのは、次のような点です。

  • 金額の妥当性(どこに費用が掛かっているか)
  • 数量や仕様の読み違いがないか
  • 抜けや曖昧な表現がないか
  • 追加になりやすい項目がどこか
  • 質疑への回答が早いか、丁寧か

 

【施工業者さん選定:判断軸は「金額だけ」ではない】

施工業者さんの選定は、単に「安いところを選ぶ」作業ではありません。

金額だけでなく、対応の丁寧さや見積精度も含めて総合的に判断し、
「お施主さまの大切な建物を任せられる施工業者さん」を選定するための助言をいたします。

ここまでの内容をまとめると、見積内容の精査は高度な技術を要します。
必要になるのは、たとえばこんな要素です。

  • 経験
  • コミュニケーション能力
  • 物流事情の変化
  • 資材単価の更新
  • 見積の前提を読み分ける力

これらをお施主さまが直に判断するのは、ほとんど不可能に近いと思います。

こうした点を、お施主さまの代理人として見積書を読み解けること。
これは、設計事務所に依頼する大きなメリットだと考えています。

※最終決定は、あくまでもお施主さまの意向を尊重します。

 

【金額調整(VE):予算と計画のバランスを取る】

金額調整が必要な場合は、施工業者さん選定の後、
金額調整=「VE(ヴァリューエンジニアリング)」リストを作成し、
ご予算と計画のバランスを図ります。

ここでやりたいのは、「ただ削る」ことではありません。
計画の「守る部分」を揺らさずに、調整できる部分を整理し、
「納得感のある落としどころ」をつくることです。

人間の身体に例えると、贅肉を落として、体をシェイプする感覚に近いです。

金額の調整というと、夢を一つずつ諦めなければならない、辛い時間帯。
という印象を持たれる方も多くいらっしゃいますが、
私たちにとっての金額調整は、「妥協ではなく研ぎ澄ませること」。
これに尽きると思っています。

また、お施主さまご自身も、
「この計画で何を実現したいのか」に真剣に向き合っていただくことになるので、
自然と優先順位が明確になっていく方が多いです。

建築の計画で、最も繊細な局面であり、最も自問自答する、大切な時間です。

VEの作成にあたっては、私たちからのご提案に加え、
お施主さまのご要望も内容に応じて柔軟に取り入れます。

 

【次の一歩(#07予告)】

施工業者さんが決まり、工事金額が整ったら、次は「工事契約・確認申請」です。
次回 #07では、「工事請負契約で何が確定し、確認申請へどうつながっていくのか」を整理します。

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