Project
HOUSE L|屈折点に光を据え、整える三世代の距離
Hiroshima City, Hiroshima, 2024
概要|三世代にふさわしい距離を見つける
本計画は、広島市内に建つ二世帯住宅を、
三世代の暮らしを受け止める住まいへ再編集するフルリノベーションです。
早くにお父さまを亡くされた息子さまには、
東広島で一人暮らしを続けるお母さまを迎え、
これからの時間を一緒に楽しく過ごしたいという願いがありました。
新築も選択肢に入れながら、
家族が心地よく暮らせる土地を探し続ける。
その末にたどり着いたのが、
偶然売りに出された、
奥さまのご実家の隣に建つ築26年の住宅でした。
妻の両親の隣で、夫の母と暮らす。
正直に言えば、
私自身も夫であり、父でもあるからこそ、
最初は少し、不安が先に立ちました。
本当にうまくいくのだろうか。
誰かに無理が生まれることはないのだろうか。
けれど、お施主さまとの打合せを重ねるうち、
その心配は余計なものだったと、すぐに分かりました。
それぞれが相手を尊重し、
近づきすぎることも、
遠慮して離れすぎることもない。
息子さまも、母と妻のどちらか一方に寄りすぎることなく、
家族の間にある絶妙なバランスを大切にされていました。
その関係から生まれる空気は驚くほど自然で、
そして穏やかなものでした。
このご家族に必要だったのは、
ただ物理的な距離を近づけることではありません。
すでにある心地よい関係を、
建築がそっと支えることだと感じました。
近づける/離すという二択ではない。
このお施主さまだからこそ実現できる、
三世代にふさわしい距離を設計すること。
それが、この計画の最初の問いでした。
既存|上下階に分かれていた二つの暮らし
既存建物は、1階、2階ともに、
アルファベットの「L」を思わせる特徴的な平面形を持っていました。
1階の外壁はライトグレー。
そこからL字の二方向へ張り出した2階部分は、
鮮やかなレモンイエローに塗られていました。
内部は、1階と2階のそれぞれに、
LDKと個室を備えた二世帯住宅でした。
両世帯が共有するのは、玄関ホールだけです。
ホール内に設けられた階段から、
1階と2階、それぞれの生活へと分かれていく。
一つ屋根の下にありながら、
上下階の視線や気配が交わることはありません。
玄関だけを共有する二つの住戸が、
単純に上下へ積み重なったような構成でした。
コンパクトに二世帯を収めるという視点では、
合理的な計画です。
しかし、HOUSE Lで目指す暮らしには、
ふさわしくない構成であると感じました。
この分断された関係をどのように見直し、
家族の存在を緩やかに感じられる住まいへ変えていくのか。
既存建物が持つ「L」という特徴を生かしながら、
三世代の生活に合わせて、
空間構成を大胆に組み替えることが求められました。
計画|建物の中央を、光と気配が行き交う場所へ
最初に見直したのは、玄関の位置です。
既存の玄関は、
ビルトインガレージから直接建物へ入れる位置にありました。
雨に濡れることなく、車へ乗り降りできる。
毎日の買い物や子育てに追われる暮らしを考えれば、
そこには十分な便利さと合理性があります。
それでも、この計画で優先したのは、
「家族のつながり」を空間によって生み出すことでした。
家族のつながりを、暮らす人の努力だけに委ねない。
建築そのものが、
日常の中に自然な出会いを生み出すこと。
これは、HOUSE Lで最も大切にし、
最後まで貫いた考えです。
玄関ホールは、
建物の中央にあたる「L」の屈折点へ移しました。
その上部には、
約8帖の大きな吹き抜けを設けています。
屈折点に生まれたこの吹き抜けの中へ、
玄関ホール。
階段。
スノコ床の鉄骨ブリッジ。
三つの要素を重ねました。
この操作によって、
上下階の暮らしを分けていた二世帯住宅に、
家族の視線や気配、光が行き交う中心が生まれました。
既存のL字型平面は、
この吹き抜けを介した二つのゾーンとして捉え直しています。
1階、2階ともに、
北側には、家族や子どもたちが「集う場所」を。
南側には、一人、あるいは二人で落ち着いて過ごす
「こもる場所」を配置しました。
吹き抜けに架かる軽やかな鉄骨ブリッジは、
性格の異なる二つの場所を結ぶ、
文字どおりの架け橋です。
近くにいながら、一人でも過ごすことができる。
別々の場所にいながら、
互いの存在を感じることができる。
あえて、建物の中央で空間を二つに分ける。
一見すると、
家族を遠ざけるようにも見えるこの操作によって、
三世代それぞれが心地よくいられる距離を生み出しました。
構造|軽やかな架け橋で、建物を支える
建物の中央に約8帖の吹き抜けを設けることで、
2階の床は南北に分かれ、
構造上、水平剛性が低下します。
そこで、鉄骨と鉄筋ブレースを組み合わせ、
吹き抜けの周囲を構造的に結ぶことで、
必要な水平剛性を確保しました。
軽やかに見えるブリッジは、
二つの場所をつなぐ動線であると同時に、
建物全体を支える構造でもあります。
空間をつなぐための意匠と、
建物を支えるための構造。
それぞれを別々に考えるのではなく、
一つの操作として重ね合わせています。
屈折点|障子を通して、家全体へ光を配る
「L」という形は、
屈折点を中心に二つの腕を広げた姿にも見えます。
吹き抜けを設けた2階の屈折点には、
もともと既存バルコニーへ出るための、
大きな引き違い窓がありました。
この窓には、
バルコニーから吹き抜け側への転落を防ぐため、
左右それぞれ約100ミリに開き幅を制限するストッパーを設けています。
出入口としての役割を抑え、
大きな明かり取りの窓として活用しました。
南東に面するこの開口からは、
豊かな自然光が入る一方で、
時間帯によっては強い直射光が差し込みます。
この光を調整するために選んだのは、
カーテンでも、ロールスクリーンでも、
ブラインドでもありません。
吹き抜けにふさわしい光のあり方を考え、
職人の手仕事による障子建具を設けました。
障子は直射光を受け止め、
室内を満たす柔らかな光へと変換します。
その光は吹き抜けを介して2階から1階へ届き、
建物全体を穏やかに包み込みます。
これと直交する面にある既存窓は、
バルコニーへの主動線として残しました。
こちらにも同じ障子建具を設け、
二つの障子がL字に連なる構成としています。
両方の障子を開けると、
道路向かいの擁壁を覆う植物が現れ、
光とともに緑の風景が室内へ入り込みます。
屈折点に、光を据える。
「L」の屈折点は、
単なる平面上の折れではありません。
二つのゾーンと三世代の暮らしを緩やかにつなぎ、
家全体へ柔らかな光を配る場所となりました。
窓|制約を、一つの風景へ変える
1階のLDKに新設した開口部は、
もともと玄関があった場所です。
既存の玄関開口と、
それに直交する面に設けられていた、
小さな明かり取りの窓。
それ以外の部分は、
構造上、簡単には撤去できない壁でした。
そこで、無理に大きな窓をつくるのではなく、
二つの既存開口を、
一つのL字型開口として捉え直しました。
大きくできないのなら、
小さな二つの窓を、一つの風景に変える。
LDKに設ける窓としては、
決して大きなものではありません。
けれど、その先にある庭をパノラマのように切り取ることで、
LDKの一角に、
庭に包まれるような感覚を得られる場所をつくりました。
窓の高さは、
お手持ちのソファに腰掛けた際、
背もたれが開口部に重ならないよう調整しています。
座った時に、
視線が自然と庭へ向かう高さです。
大きな開口によって庭へ正対するのではなく、
庭へそっと寄り添っていく。
そのような、
印象深いL字型のピクチャーウィンドウとなりました。
HOUSE Lのシンボルツリーである百日紅は、
もともと敷地内に植えられていたものです。
移植前は枝が道路まで大きく越境していたため、
抜根することも検討されました。
しかし、枝ぶりがよく、
美しい樹形を持つ百日紅でした。
そこで、花の時期に鮮やかなピンク色を室内から楽しめるよう、
ピクチャーウィンドウから最も美しく見える位置へ、
移植することをご提案しました。
主に料理を担うお母さまの立つキッチンからは、
この窓を介して、
毎日帰ってくるお孫さまの姿を、
誰よりも早く見つけることができます。
窓やガラスは、
光や風景を取り込むためだけのものではありません。
家族が互いの姿に気づき、
自然に言葉を交わすきっかけをつくる。
制約を消すのではなく、
見方を変えることで、新しい価値へ変えていく。
この窓は、庭の風景を切り取ると同時に、
家族の日常に小さな出会いを生み出す装置としても機能しています。
素材|既存の時間を、新しい空間へ引き継ぐ
既存建物の中で特徴的だったのは、
屋根勾配に沿った2階の天井と、
現しになった登り梁です。
登り梁は撤去せず、
プレーナーで表面を整え、
自然塗料で仕上げ直しました。
梁の間には、
一定の幅に割いたシナベニヤを、
目透かしを設けながら既存天井の上へ貼り重ねています。
既存の構造要素を覆い隠すのではなく、
新しい仕上げのリズムと組み合わせる。
古いものと新しいものの差を完全に消すのではなく、
同じ空間の中で調律する。
新しく見せるために、古さを消すのではありません。
重ねられてきた時間を、
新しい空間の表情として生かします。
既存の梁や柱。
新設した木部。
塗装、左官、鉄、真鍮。
それぞれの素材が持つ質感を生かしながら、
自然素材の温かさを備えた空間を目指しました。
施工|26年を経て、つくり手のもとへ戻る
施工を依頼した段原建設は、
偶然にも、26年前にこの既存建物を建てた工務店でした。
計画当初は、
過去に自社が施工した建物だとは、
誰も気づいていませんでした。
当時の資料も残っていません。
けれど、打合せを重ねるうち、
現在の社長の中に、
先代がこの建物について話していた記憶が、
少しずつ蘇っていきました。
一度は手を離れた建物が、
26年の時間を経て、かつてのつくり手のもとへ帰ってくる。
家族の関係だけでなく、
建物とつくり手の関係もまた、
このリノベーションによってつなぎ直されることとなりました。
新しくつくる技術だけでなく、
過去につくられたものを読み解く技術。
世代を越えて受け継がれた記憶と経験が、
HOUSE Lの新しい時間を支えています。
土地|海から生まれた場所で、境界を引き直す
計画地である五日市南地区は、
かつてその大部分が海でした。
江戸時代初期の海老塩浜村に始まり、
塩田や新開地、昭和以降の埋め立てを経て、
海岸線を少しずつ南へ移しながら、
現在の暮らしの地盤がつくられてきました。
海と陸の境界を更新し、
すでにある地形へ手を加えながら、
新しい生活の場所を生み出してきた土地です。
その場所で既存住宅をリノベーションすることは、
土地の成り立ちとも、どこか重なります。
建物を更地へ戻すのではなく、
既存の形や記憶を一つの地形として受け止め、
暮らしの境界を引き直す。
リノベーションは、
古い価値を元の姿へ戻すことではありません。
すでにあるものを丁寧に読み込み、
新しい視点と手を加えることで、
それまで存在しなかった価値と関係を生み出すこと。
HOUSE Lでは、
その可能性を一つひとつ探りました。
暮らし|家族が、場所の意味を更新していく
完成後、家族は多くの時間を1階で過ごしています。
息子さまが以前から使ってきたソファは、
現在も1階のLDKに置かれています。
若いご夫婦のために計画した2階のLDKは、
子どもたちの遊び場になりました。
将来分割できる子ども室は、
今も一つの大きな部屋のまま使われています。
そこでは、
以前の住まいで使っていたダイニングテーブルを挟み、
二人のお子さまが向かい合って勉強しています。
設計された用途に、
暮らしを無理に当てはめるのではない。
家族が時間とともに、
自分たちなりの使い方を見つけ、
場所の意味を更新していく。
建築が完成したあとも、暮らしは続きます。
そして暮らしは、
設計を少しずつ超えていきます。
集うことと、こもること。
既存と新設。
親と子。
過去と現在。
屈折点に据えた光を中心に、
それぞれの間にふさわしい距離をつくること。
三世代が一緒に暮らすための正解を決めるのではなく、
この家族にしかない心地よさを、建築として見つける。
それが、HOUSE Lの試みでした。










Information
- Date.
- 2024.06
- Principal Use.
- 二世帯住宅
- Location.
- 広島県広島市
- Structure.
- 木造2階建て
- Site Area.
- 149.99㎡(45.28坪)
- Total Floor Area.
- 132.77㎡(40.08坪)
- Furniture.
- 杉原 祥太 / sumu. & YUTAKA オリジナル
- Photo.
- 千葉 圭子
- Structural Design.
- 皆川 宗浩 / ジムネ構造空間研究所
- Lighting Plan.
- 山本 樹里 / TACT Lighting Design Office
- Construction.
- 段原 陽介・実政 陽大 / 段原建設有限会社