私たちが大切にしていること Pholosophy
08 照明計画について
日本には、夜の室内が煌々と明るいことに慣れている方が、とても多いように感じています。
もちろん、夜における「明るさ」には、さまざまな種類や意味があり、「明るい」ことが、それだけで正しい瞬間もあります。
明るさの役割と、美しさを際立たせる暗さ
たとえば街路では、明るさは目的地への導きであり、防犯や安心感にもつながる、生活に欠かせない存在です。
また、トンネルでは排気ガスや塵による視認性の低下を防ぐために、オレンジ色のナトリウムランプがよく使われています。
少し視点を変えて、空から街を見下ろすと、色とりどりの灯りが宝石のようにきらめき、
その美しさが、周囲の暗闇によっていっそう際立っていることに気づきます。
私たちの身の回りの環境は、「明るさ」と「暗さ」の対比によって成り立っている
のだと思います。
「照明計画を考える」とは
私たちにとって「照明計画を考える」ということは、
すなわち「生活そのものを考えること」に他なりません。
けれども、住宅の照明についてお施主さまからご要望を伺うと、
多くの場合、「明るさ」へのこだわりは聞かれるものの、
「暗さ」が生む豊かさについて語られることは、あまりありません。
灯りの束を、所作に寄り添うように
住まい手の所作にふさわしい「灯りの束」を、適所に置く。
私たちはそのようなイメージで、空間に “明るさの濃淡” をつくり出すことが、生活の豊かさを育む丁寧な照明計画だと考えています。
夜景が、明るさと暗さのコントラストによって美しく見えるように。
暗闇から導き出す、光のあり方
まずは、頭の中で空間をいったん真っ暗にします。
次に、生活動線を丁寧に思い描きながら、
「どこに」「どんな光」があると心地よいかを、じっくりと考えます。
たとえば、長い廊下には、京町屋の行燈のように、人の行く先をやさしく示す灯りがあると、
日常の中に静かな落ち着きが生まれます。
深夜にトイレに立つときも、天井からの強い光ではなく、足元を照らすやわらかな灯りの方が、目にも心にも優しいものです。
ダイニングであれば、テーブル上をしっかりと照らすことで料理が美しく見えます。
それだけで食卓に会話が生まれ、家族の時間がより豊かなものになるかもしれません。
街路から建物までのアプローチでも、
近隣に配慮をしつつ、一歩ずつ玄関に近づいていく高揚感を演出できるような、
そんな照明の工夫を提案することもあります。
照明がつくる、やさしい暮らしの風景
このように、日常のさまざまなシーンを思い描きながら、
その暮らしをやさしく受け止めるような照明計画を、私たちは大切にしています。
思いが環(めぐ)り、心が還る場所へ。