Project

Satellite Office|暮らしの断片を、提案の説得力に変える

Hiroshima City, Hiroshima, 2026

この計画は、自宅兼サテライトオフィスとして、築24年のマンション一室を整えたリノベーションです。
日常の暮らしを営みながら、仕事では来客をお通しし、打合せを行う。
生活と仕事が同居する場所を、どう成立させるかが最初のテーマでした。

きっかけは、子どもたちが生まれ、幼稚園や小学校から発熱などの連絡を受ける場面が増えたことです。
仕事の環境はヘッドオフィスだけでは足りない。
暮らしのそばに、もう一つ「働ける拠点」を持つ必要があると感じました。

 

生活感は、消すべきか

自宅を仕事場にするとき、よくある正解は「生活感を消す」方向です。
けれど私は今回、それを選びませんでした。
なぜなら、この場所を「私が手がける空間体験の場」にしたいと思ったからです。
生活の断片を包み隠すのではなく、整えて見せる。
リアルな暮らしの気配ごと、打合せの説得力に変える。
ショウルーム機能を併せ持ったオフィスとして成立させる——この方針が、計画の軸になりました。

 

足すより、引く

一方で、予算は限りなく少なく、間取りを一から組み替えるような計画は難しい条件でした。
だから「何かを足していく」よりも、徹底的に引いて空間を整えることに注力しました。
解体工事は自ら行い、しばらく解体現場で寝起きする日々もありました。
ウォークスルークローゼットの壁面収納もDIYで制作し、床のセラミックタイルも施主支給で現場へ搬入しています。
たくさんのタイルを自力で運ぶ中で、業者さんの手間や段取りの価値や対価を身をもって理解し、同時に反省もしました。
それでも、自分の手が空間に触れた時間は、結果としてこの場所への思い入れを強いものにしてくれました。

 

玄関は、暮らしの「表紙」

来客を迎えるサテライトオフィスにおいて、玄関ホールは最初の印象を決める場所です。
ここで大切にしたのは、生活感を「消す/残す」ではなく、どう整えて迎えるか

玄関扉を開けて右手には、下足入れに加え、鍵や小物、身につけるものを置くスペースをまとめています。
さらにその奥には、子どもたちのランドセルや習い事のバッグ、道具類の置き場も。
扉で隠すこともできますが、ここはあえてオープンの可動棚にしました。
子どもたちが自分で戻しやすく、取り出しやすいことを優先したためです。
スチールメッシュのバスケットで“子どもたちなりに分別できる仕組み”をつくり、
暮らしのリアルが散らからずに収まるよう整えています。

日常の空気感を保ったまま、場としての品位が立つように。
視線の抜けと面の揃いを丁寧に整えました。

 

打合せの席も、暮らしの席

打合せの席は、普段はダイニングとして使っています。
構えすぎない距離感は、自然な対話を生みます。
そして、日常使いの場だからこそ「使うための設計」がそのまま説得力になります。
例えば床仕上げ。子どもがいる暮らしでは食べこぼしは日常で、掃除性や耐久性は現実的なテーマになります。
水拭き・から拭きができ、シミが残らない床としてタイルを採用したのは、まさにこの実体験からの判断です。
空間を「魅せるため」ではなく、余すことなく「使うため」に整える。
そのリアルを、未来のお施主さまの暮らしに重ねてもらえたらと考えました。

 

小さな部屋にも、意味を落とし込む

トイレのような小さな部屋も、妥協なくその意味を落とし込みます。

このサテライトオフィスのトイレには窓がなく、電気を消すと真っ暗になります。
扉を開けて灯りをつけた瞬間に初めて見える“全貌”が、気持ちを切り替える——
その感情の動きを丁寧に設計しました。

正面の壁には輸入クロスを採用しています。
国産クロスに多いビニール由来ではなく、紙由来の素材です。
汚れやすく、強く擦ると破れやすい弱点はありますが、トイレで掃除の主役になるのは便器まわり。
そこで、水拭きが必要になりにくい高さに貼ることで弱点を補いました。
こうした工夫もお施主さまにお伝えすることで、仕上げを選ぶ楽しみを増やせるように。
そして何より、国内ではなかなか見られない“オリジナリティのある体験”の一例として提案できたらと考えています。

リノベであっても、設備を更新するだけで終わらせない。
来客をお迎えする設えとして、打合せの合間に一息つける“ホッとする場所”をつくりたい。
生活の裏側にも意図を残すことが、空間全体の信頼感につながると考えています。

 

キッチンは「少し息をつける距離感」に

キッチンは、既存のキッチンの配置を変更せず、セミクローズドとしました。
最近、夫婦の役割分担を見直して、私がキッチンに立つ時間が増えたこともあり、
後追いではありますが、この判断には大切な発見がありました。

家具のようなアイランドキッチンを空間の中心に据える案も魅力的です。
けれど実は、料理の時間は“ずっと手を動かしている”わけではありません。

オーブンの完了を待つ数分、腰を下ろしてタブレットを観たり、音楽を流したり——小さな休憩が挟まることがある。
そのときに、少しだけ腰を下ろせる場所がキッチン廻りにある。
すぐそばに賑やかな家族の気配があるにもかかわらず、ほんの少し息をつける。
この距離感は、思っていた以上に大切でした。

暮らしの断片が見えるほど、打合せの“引き出し”は増していく。
その場で開けて、頷きが重なるほど前に進む。
生活と仕事を分けるより、うまく重ねる。
その境界の扱いを、このキッチンから学びました。

 

暮らしの断片を隠さず、整えて見せる。
日常そのものを、提案の説得力へ変える。
このサテライトオフィスは、そのための実験でもあり、現在進行形の仕事場でもあります。

Information

Date.
2022.06
Principal Use.
オフィス
Location.
広島県広島市
Structure.
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Site Area.
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Total Floor Area.
77.04㎡(23.25坪)
Furniture.
杉原 祥太 / sumu. & YUTAKA オリジナル
Photo.
蝶野 慎明
Construction.
本田 博史 / キリン木材株式会社

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